松山地方裁判所 平成8年(ワ)223号 判決 1999年8月27日
原告
甲野花子
(以下「原告花子」という。)
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
高田義之
同
今川正章
被告
松山市
右代表者市長
中村時広
右訴訟代理人弁護士
田中重正
同
稲瀬道和
主文
一 被告は、原告花子に対し、金五五三四万八二一一円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告太郎及び原告夏子に対し、それぞれ金一三〇万円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告花子に対し、金一億三八七五万一六四八円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告太郎及び原告夏子に対し、それぞれ金五五〇万円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告花子が、松山市立和気小学校(以下「和気小学校」という。)の水泳の授業中にプールサイドから逆飛び込み(以下「本件逆飛び込み」という。)を行い、水底に頭部を衝突させて第五頸椎骨折、頸髄損傷の傷害を負った事故(以下「本件事故」という。)につき、担当教諭には事故の発生を未然に防止すべき注意義務等に違反した過失があり、学校長には担当教諭らを指導すべき注意義務等に違反した過失があったとして、原告らが、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき損害賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 当事者関係
(一) 原告花子は、昭和五七年一月一八日生まれで、平成五年七月一六日当時、和気小学校六年三組の児童として就学し、原告太郎及び原告夏子は、原告花子の父母である。
(二) 被告は、和気小学校を設置管理しており、本件事故当時、A(以下「A校長」という。)が校長として校務をつかさどり、B(以下「B教諭」という。)が六年三組の担任教諭として、C(以下「C教諭」という。)が六年二組の担任兼体育主任教諭として、それぞれ和気小学校に勤務しており、A校長、B教諭、C教諭は、いずれも被告の公務に携わる公務員である。
2 本件事故の発生と受傷
原告花子は、平成五年七月一六日、和気小学校に設置されたプール(以下「本件プール」という。)で実施された第五時限目の六年生の全クラス(五クラス)合同での水泳授業において、全体授業からクラス別の指導に移行した同日午後二時五〇分ころ、本件逆飛び込みを行った際、本件プールの底に頭部を激突させ、その結果、第五頸椎骨折、頸髄損傷の傷害を負った。
3 原告花子の治療経過と後遺障害
(一) 原告花子は、右傷害のため、本件事故当日から平成五年七月一八日までの間(三日)済生会松山病院に入院して救急治療を受け、同年七月一九日から平成六年一月一四日までの間(一七二日・年末年始を除く)県立中央病院に入院して前方固定術、椎体亜全滴の手術を受け、同年一月一七日から同年八月二六日までの間(二二二日)岡山吉備リハビリセンターに入院して治療及び機能回復訓練を受けた。
(二) 原告花子は、岡山吉備リハビリセンターを退院した後、自宅で生活しているが、後遺障害として、両下肢が完全に麻痺(立位、歩行は不可能)、左上肢が完全に麻痺、知覚の脱失、排便・排尿障害等が残った。
(三) 原告花子は、右後遺障害のため、日常生活の動作を独力ですることができず、常時他人の介護を必要とし、今後も大きな回復が期待できない状態にあり、平成六年二月一五日、「頸髄損傷による両下肢機能全廃・左上肢機能全廃・右上肢機能に著しい障害」により、身体障害者福祉法による身体障害者等級の一級に該当する障害があると認定された。
(四) 原告らの日常生活と介護の概要は、次のとおりである。
原告花子は、午前六時三〇分に起床し、原告夏子の介助を受け、着替え、トイレをすませ、午前七時三〇分ころ朝食をとる。原告花子の右手の握力は三キロ、左手は零である。進学後の内宮中学校への登校(現在は高校生)は、自宅玄関の自動車まで車椅子で移動し、原告夏子に自動車で送られ、学校生活は、先生らに介護してもらい、午後四時ころ、原告夏子が学校に迎えに行く。風呂は、原告夏子が介護のため一緒に入る。便意・尿意を感じないため、排尿は、毎日カテーテルで導尿し、排便は、土曜日か日曜日、週に一度、下剤を用いて調整する。体温の自律調整機能や皮膚呼吸、発汗作用がないので、エア・コンによる室温調整が欠かせず、万一、風邪をひくと重篤な事態となる危険がある。痛覚を失っているので、注意しないと気がつかない間に火傷するおそれがある。
第三 争点
一 被告の責任の有無
1 原告らの主張
(一) C教諭、B教諭の注意義務違反
C教諭、B教諭は、原告花子に対し、本件水泳授業の実技指導をするに際し、逆飛び込みが重大な危険を伴うこと、逆飛び込みの練習は担当教諭の指導のもとで実施しなければならないことを徹底するとともに、水深が1.1メートル以下である本件プールでは、原告花子の動静を把握し、原告花子が逆飛び込みをしようとした場合には、これを事前に制止すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、原告花子が逆飛び込みの練習をしてもこれを制止せず、本件事故を生じさせた。
(二) B教諭固有の注意義務違反
B教諭は、全体授業からクラス別の指導に移行した後、児童二名に飛び込みの指導をしていたから、他の児童がこれを真似て飛び込み練習をすることが予測され、現に、原告花子やその他の児童が逆飛び込みをしていたのであるから、直ちに、これに気付き、制止すべきであったにもかかわらず、これを怠り、本件事故を生じさせた。
(三) A校長の注意義務違反
A校長は、C教諭、B教諭を指導する職務権限を有するところ、和気小学校における水泳授業の実施に当たって、児童に対し、逆飛び込みが重大な危険を伴うこと、逆飛び込みの練習は担当教諭の指導のもとで実施しなければならないことなどの注意が徹底されていなかったのに、これを見過ごし、担当教諭であるC教諭、B教諭に対する指導を怠り、本件事故を生じさせた。
2 被告の主張
(一) A校長、C教諭について
(1) A校長は、和気小学校における水泳指導について、学校全体で指導計画を立案したほか、特に飛び込みには危険が伴うため、「水泳(スタート)の指導について」と題する文書を配付して、具体的な指導内容につき全教職員に対する徹底を図るとともに、担当教諭をして学級活動の時間等に右事項を児童にも指導させるなど十分な対応を行ってきたものであり、注意義務違反はない。
(2) C教諭は、体育主任として、担任を務める六年生の合同水泳授業の中心的な立場にあったが、水泳授業に対する指導計画の立案やその徹底を図ることにつき欠くところはなかったし、合同授業においても、六年生全員にスタートにおける注意事項を指導しており、注意義務違反はない。また、本件事故は、合同授業におけるC教諭の指導下ではなく、クラス別の指導時に発生したものであり、C教諭の注意義務違反を問題とする余地はない。
(二) B教諭について
B教諭は、全体でターンの練習が行われた後のクラス別の指導において、六年三組の児童にターンの復習をさせ、苦手な泳法の練習を指示した後、児童二名からスタートの指導を求められたため、その指導をしていたところ、原告花子が、突然、本件逆飛び込みを行ったもので、これを制止する余地はなかった。そして、B教諭には、原告花子において、急な角度で逆飛び込みを行うことを予測することは不可能であり、予見可能性はなく、注意義務違反はない。
二 原告らの損害額
1 原告らの主張
(一) 原告花子の損害合計
一億三八七五万一六四八円
(1) 入院雑費 五一万六一〇〇円
(2) 療養雑費 六七二万三六六五円
(3) 介護費用六七二三万六六五〇円
(4) 後遺障害による逸失利益
四〇七四万一二三三円
(5) 家屋改造費
一〇四三万四〇〇〇円
(6) 慰藉料 二五〇〇万円
(7) 損益相殺二二九〇万円(日本体育・学校健康センター災害給付金)
(8) 弁護士費用 一一〇〇万円
(二) 原告太郎、原告夏子の損害合計 各五五〇万円
(1) 慰藉料 各五〇〇万円
(2) 弁護士費用 各五〇万円
2 被告の主張
争う。
三 過失相殺
1 被告の主張
(一) 原告花子は、昭和六三年七月一日(小学一年時)よりスイミングクラブ「南海ドルフィンクラブ」に入会し、本件事故当時は、二級に進級していたが、同クラブでは、逆飛び込みは、九級のクロールを修得する時点で指導を受け、これをマスターしなければ上級に進むことができず、その後の平泳ぎ、バタフライ等の種目をマスターする課程でも、常に逆飛び込みのチェックを受けていた。
また、原告花子は、和気小学校における水泳授業においても、平成四年九月に行われたクラス対抗リレーで小学五年三組女子部のアンカーに起用され、逆飛び込みで入水しており、本件事故直前の平成五年七月八日、九日、一二日の三回にわたるスタートの実技指導においても、正常かつ安全に逆飛び込みを行っていた。
(二) 原告花子は、このように正常かつ安全に逆飛び込みを行う能力があるにもかかわらず、急な角度での逆飛び込みを行い、本件事故を惹起したものである。
2 原告らの主張
原告花子が小学六年生で判断能力が未成熟であること、これに対して、被告らの過失が前記のとおり重大であることからすると、本件においては、過失相殺をすべきではない。
第四 当裁判所の判断
一 被告の責任の有無について
1 争いのない事実及び証拠(甲六、二四、二五、乙一〇、一一の1〜3、証人乗松真子、同乙山春子、同丙野冬子、同門屋淳子、同C、同B、原告甲野夏子、原告甲野花子、認定事実末尾に括弧書きの証拠)によれば、次の事実が認められる。なお、後記認定事実に反する前記各書証の記載、各証人の証言、原告ら本人尋問の結果の一部は採用しない。
(一) 水泳についての指導状況
(1) 和気小学校では、平成五年五月二五日の職員会において、体育主任であるC教諭が作成した平成五年度水泳指導実施計画(乙一)に基づき、同年度の水泳指導を行うこととなり、同年六月一六日の職員朝礼において、松山市教育委員会作成の「水泳等の事故防止について」(乙二)、C教諭作成の「水泳(スタート)の指導について」(乙三)と題する各書面が職員に配付された。
(2) 右各書面は、水泳の授業に関する指導上の注意事項が記載されていたが、特に、「水泳等の事故防止について」と題する書面(乙三)には、飛び込みによる頭部の強打等の防止に万全を期することが記載されていた。
実技授業の状況
(1) 和気小学校における六年生の水泳実技授業は、六年二組の担任兼体育主任であるC教諭を中心に他の担任教諭四名が児童の指導にあたる五クラス(生徒数一七二名)合同による形式をとっていた。
(2) そして、六年生の水泳授業は、平成五年六月一九日、水泳実技授業開始にあたって、担任教諭が、各クラスごとに口頭による指導をした後、実技授業が、①同年六月二一日、②同月二四日、③同月二八日、④七月五日、⑤同月八日、⑥同月九日、⑦同月一二日、⑧同月一五日、⑨同月一六日(本件事故当日)に実施された。その間、七月八日、九日、一二日、一五日(ただし、一五日は、原告花子の六年三組は参加しなかった。)は、スタートの練習もなされていた(乙七)。
(三) 本件プールの状況
本件プールは、平成元年六月ころに設置されたもので、南北二五メートルの六コースがあり、東西の幅は約一一メートルである。本件事故発生場所付近の水深は、約1.1メートルであった(甲二二、乙一一の1・2)。
(四) 原告花子の泳力等
原告花子は、昭和六三年ころ(小学一年時)よりスイミングクラブ「南海ドルフィンクラブ」に入会し、同クラブの一六級からスタートし、九級の項目であるクロールの判定テストにおいて、正式スタートができると認定され、本件事故時においては、課題が個人メドレーである二級に進級していたものである(乙五、九)。また、原告花子は、平成四年九月に行われたクラス対抗リレーでも小学五年三組女子部のアンカーに起用され(乙四)、逆飛び込みで入水したこともあり、本件事故時以前の七月八日、九日、十二日にも逆飛び込みを行っており、逆飛び込みによってプールの底に頭部を打ったり鼻を擦ったりした経験はなかった。
(五) 本件事故発生時の状況
(1) 平成五年七月一六日の第五時限目午後一時五五分ころ、本件プールにおいて、C教諭を中心とする担任教諭の指導のもと、六年生の全クラス合同による水泳の授業が開始され、全体でターンの練習等が行われた後、午後二時三五分ころから、本件プールを五つの区域に分けてクラス別の指導が行われることになった。なお、六年三組に割り当てられた区域は、コースロープが張られていない本件プールのうち、北西端を基点に南に約一五メートル・東に約5.5メートルの範囲内の部分であった(乙一一の1)。
(2) B教諭(当日は水着を着用していなかった。)は、プールサイドから六年三組の指導を担当することになり、六年三組の児童に対し、更にターンの練習を行わせた後、授業の終了間際になって、児童らをプールサイドに上げ、「苦手な泳ぎを練習しなさい。」と指示を出したが、その際、特に、スタートの練習を口頭で禁止することはしなかった。六年三組の児童の中には、B教諭の右指示を自由に泳いで良いと理解した者もあった。
(3) B教諭の右指示の後、六年三組の児童は、再びプール内に入り、それぞれ泳ぎの練習を始めたが、その状況は、潜ったり、飛び込んだり、プールサイドで休憩したりするなど、統一がとれた状態ではなかった。
(4) B教諭は、プールサイドから児童らの状況を見ていたが、六年三組の児童である乙山春子(以下「乙山」という。)と丙野冬子(以下「丙野」という。)から飛び込みの指導を求められたことから、両名に対し、まず、プールサイドから足飛び込みを行わせ、一旦プールサイドに上げて、足や手の動かし方を説明をした後、二回目の飛び込みを行わせ、さらに、三回目の飛び込みを行わせた。
(5) 原告花子は、プール内で六年三組の児童である丁山秋子(以下「丁山」という。)と「何をしようか。」などと話をしていたが、プールサイドから飛び込む同級生がいたことから、「飛び込んでいいんかな。」、「見あいこみたいな感じで飛び込みをしようか。」などと話し、丁山と交互に飛び込みを行うことにした。そこで、まず、原告花子が、乙山らが飛び込んでいるプールサイドから、プール内の児童がいない空間を見つけて逆飛び込みを行い、次いで、丁山が右同様に飛び込みを行い、プール内で互いに「どうだった。」、「良かったよ。」などと話したが、B教諭から何の注意も受けなかったことから、さらに、「もう一回飛び込む。」、「じゃあ、飛び込もうか。」などと話し、原告花子が、一回目とほぼ同じ位置(水底からの高さ1.28メートル)から逆飛び込みを行ったところ、プールの底に頭部を激突させて本件事故が発生した。
(6) B教諭は、乙山や丙野の指導に気をとられ、原告花子らが飛び込みをしていることに気付かなかった。その後、B教諭は、乙山や丙野が前記三回目の飛び込みを行った直後に、原告花子が入水したところを目撃したが、原告花子がそのまま浮かび上がってこなかったことから異変を感じ、プール内の付近にいた乙山、丙野、丁山らに指示して原告花子をプールサイドに引き上げさせた。そして、原告花子は、B教諭やC教諭らにより一旦保健室に運ばれた後、救急車により済生会松山病院に運ばれた。
以上の事実が認められる。
2 B教諭は、証人尋問において、原告花子や丁山が飛び込んでいるところを見ていない旨証言しているが、原告花子や丁山(甲六)のみならず、乙山も、証人尋問において、原告花子や丁山が飛び込んでいた旨証言し(証人乙山春子)、原告花子や丁山が本件授業において飛び込んだのはこの時だけで、記憶の混同等が生じることも考え難いことに照らすと、乙山らの右証言は信用できるものであり、B教諭は、乙山や丙野の指導に注意を奪われ、原告花子や丁山が飛び込みを行っていることを看過していたものと推認される。
3 B教諭の過失
(一) 本件事故は、前記のとおり、六年生全体による練習が終わってクラス別の指導に移行し、B教諭が、六年三組の児童に対し、ターンの練習という具体的な課題を与えた後、「苦手な泳ぎを練習しなさい。」などと指示して自主的な泳ぎの練習を行わせていた際に発生したものであるが、このような自主的な練習を行わせる場合、担当教諭には、水泳の授業が直接児童の生命・身体に対する危険を包含していること、特に、小学六年生という危険に対する判断能力の未熟な低年齢の児童を指導していることに鑑み、やや解放的になる児童の心理状況をも考慮し、クラス全体の児童の動静を絶えず確認し、安全確保のために十分な配慮を行うことが要請されていると解される。
そして、B教諭は、前記のとおり、乙山と丙野から飛び込みの指導を求められるや、自ら飛び込みの方法を説明しながら両名に飛び込みを行わせているのであるから、自主的な練習時間中に一層危険の内在する飛び込みを行わせること自体の是非はともかく、一部の児童に飛び込みを行わせる以上、自らの指導監督の及ばないところで他の児童が飛び込むことのないよう絶えず確認し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務を負っていたというべきである。
(二) ところが、B教諭は、プールサイド上において、クラス全体の児童の動静を確認するのに何ら支障がなかったにもかかわらず、乙山と丙野の指導のみに注意を奪われ、原告花子及び丁山等が飛び込みを行っていることを看過し、これを制止しなかった結果、自らの指導監督の及ばない状況のままで、原告花子が本件逆飛び込みを行って本件事故が発生したのであるから、前記注意義務違反を免れることはできず、本件事故の発生につき過失があったと認められる。
4 以上によれば、原告のその余の主張を判断するまでもなく、本件事故は、B教諭が、その公権力の行使にあたる職務の執行につき、過失により惹起したものであるから、被告は、国家賠償法一条一項に基づき、原告らが本件事故により被った損害を賠償する責任があるといわなければならない。
二 原告らの損害について
1 原告花子の損害
以下、特に証拠を掲記しないかぎり、前記当事者間に争いのない第二の二の3の原告花子の治療経過と後遺障害により判断する。
(一) 入院雑費五一万六一〇〇円
原告花子は、本件受傷治療のために合計三九七日間入院したから、その間の入院雑費として、一日当たり一三〇〇円合計五一万六一〇〇円を損害と認めるのが相当である。
(1,300円×397日)=516,100円
(二) 療養雑費
六七三万四七六一円
原告花子は、前記後遺障害のため、今後も生涯にわたり、日常生活のために紙おむつなどの消耗品、雑貨品等を使用しなければならない生活を余儀なくされると認められるから、本件療養雑費としては、一日当たり一〇〇〇円の割合で、期間については原告花子が自宅に戻った平成六年八月二七日(満一二歳)からの平均余命七一年間(平成五年、六年簡易生命表)必要であるとするのが相当である。そして、ライプニッツ方式により中間利息を控除して右損害を算出すると、六七三万四七六一円となる。
1,000円×365日×(19.4037−0.9523)=6,734,761円
(三) 付添介護費
四〇四〇万八五六六円
原告花子は、前記後遺障害のため、日常生活の動作を独力ですることができず、常時他人の看護を必要とする状態にあることが認められるから、本件付添介護費としては、一日当たり六〇〇〇円の割合で、期間については前記七一年間必要であるとするのが相当である。そして、ライプニッツ方式により中間利息を控除して右損害を算出すると、四〇四〇万八五六六円となる。
6,000円×365日×(19.4037−0.9523)=40,408,566円
(四) 逸失利益
四三九八万六九二六円
原告花子は、本件事故に遭わなければ、満一八歳から満六七歳まで四九年間の就労が可能であったと考えられるところ、前記後遺障害により、その期間の労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認められる。そして、証拠(甲七の1)によれば、右後遺障害は、平成六年二月一日症状固定したと認められるから、平成六年度賃金センサスにより、産業計・企業規模計・学歴計・年齢計女子労働者の平均年収額三二四万四四〇〇円を基礎にライプニッツ方式により中間利息を控除して右逸失利益の現価を算出すると、四三九八万六九二六円となる。
3,244,400円×(18.6334−5.0756)=43,986,926円
(五) 家屋改造費
一〇四三万四〇〇〇円
証拠(甲一四、一五、一八、一九、二〇の1・2、二三、原告甲野夏子)によれば、原告花子は、前記後遺障害のため、従前の自宅で生活するのは困難であり、今後の生活に適合する設備を備えた新たな家屋を建築する必要があること、その費用として、一〇四三万四〇〇〇円が必要であると認められるから、右建築費用を損害と認めるのが相当である。
(六) 慰謝料 二〇〇〇万円
原告花子の前記後遺障害の内容、回復の見込み、年齢その他諸般の事情を考慮すると、原告花子が本件事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は、二〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(七) 合計
一億二二〇八万〇三五三円
右(一)ないし(六)の合計は、一億二二〇八万〇三五三円となる。
2 原告太郎及び原告夏子の損害
原告太郎及び原告夏子は、父母として、原告花子が本件事故によって回復の見込みのない重篤な後遺障害を負ったことにより多大な精神的苦痛を被ったことは明らかであり、右精神的苦痛に対する慰謝料は、それぞれ二〇〇万円と認めるのが相当である。
三 過失相殺について
前記第四の一によれば、本件事故がB教諭の過失により惹起されたことが認められるが、しかし、衡平の理念からすると、過失相殺の適用の有無、程度については、被告側の行為、事情だけでなく、原告花子の行為、事情をも更に検討する必要があるので、以下これを判断する。
1 前記第四の一によれば、原告花子は、本件事故当時、小学生とはいえ六年生であり、一応の事理弁識能力は有していたと推認されるうえ、小学校一年生のときからスイミングスクールに通って(本件事故当時は二級)、既に逆飛び込みを履修しており(九級進級時)、逆飛び込みによってプールの底に頭部を打ったり鼻を擦ったりした経験がないことからすると、逆飛び込みには相当習熟していたと推認され、加えて、本件事故が飛び込みの練習時間中に発生したものではなく、原告花子が他の児童の行動に触発されたとはいえ、B教諭の具体的な指示がない状況において、自らの判断で本件逆飛び込みを行ったことが認められる。
2 ところで、原告花子は、本人尋問において、本件逆飛び込みの状況につき、一回目と同じように普段どおりに飛び込んだ旨供述している(原告甲野花子)。
しかしながら、原告花子の本件受傷の部位・程度、前記逆飛び込みの習熟の程度等からすると、普段どおりの逆飛び込みの方法により本件事故が発生したとは考え難いこと、そして、B教諭は、本件事故直後に保健室で救急車の到着を待っている際、教頭に対し、原告花子が急な角度で入水するところを見た旨供述し、証人尋問においても同様の証言をしていること(証人B、同門屋淳子)、乙山は、本件事故から一週間後に行われた事情聴取の際、教頭やB教諭らに対し、原告花子が「飛び上がって飛び込むのを見て、自分のところにぶつかってくると思って避けた。」旨供述し、証人尋問においても、原告花子が飛び上がっているところを見た旨証言していること(乙一三、証人乙山春子、同B、同門屋淳子)などを総合すると、原告花子は、高めに飛び上がり、普段よりも急な角度で入水し、本件プールの底に頭部を激突させたものと推認される。
なお、証拠(乙一三、一四、証人B、同門屋淳子)によれば、乙山は、右事情聴取の際、原告花子が「とんとんと走って」飛び上がった旨供述していることがうかがえるが、他方、乙山は、証人尋問において、原告花子が走ってきたかどうかは見ていない旨証言し(証人乙山春子)、他にこれを裏付けるに足りる証拠もないことからすると、原告花子が走って飛び上がったとまでは認定することができない。
3 以上1、2の原告花子の年齢、泳力、原告花子がB教諭の具体的指示のないまま本件逆飛び込みを行ったこと、原告花子の本件逆飛び込みの態様等原告花子の過失相殺において斟酌すべき事情と被告側の前記認定の和気小学校における水泳実技指導、B教諭の過失の内容、程度等を総合考慮すると、本件事故における原告花子の過失割合は、四割とするのが相当である。
4 以上によると、原告花子の損害は七三二四万八二一一円、原告太郎及び原告夏子の損害はそれぞれ一二〇万円となる。
四 損害のてん補について
原告花子が、本件事故に関し、日本体育・学校健康センターから災害給付金二二九〇万円の支払を受けたことは、原告らの自認するところであるから、これを原告花子の過失相殺後の損害合計七三二四万八二一一円から控除すると、原告花子の残損害額は五〇三四万八二一一円となる。
五 弁護士費用について
原告らは、本件訴訟代理人弁護士らに委任して本件訴訟を提起したが、本件事案の難易、訴訟の経緯、認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告花子について五〇〇万円、原告太郎及び原告夏子についてそれぞれ一〇万円とするのが相当である。
六 結論
以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告花子について五五三四万八二一一円、原告太郎及び原告夏子についてそれぞれ一三〇万円及びこれらに対する本件事故発生の日である平成五年七月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官豊永多門 裁判官木太伸広 裁判官末弘陽一)